夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「初めてじゃなかったら問い詰めていた所だ。いつ、どんな男が相手だったのか事細かく聞いていた」
「……嫉妬ですか?」
「そうだろうな」

 しれっと返される。
 今思えば、誤解されやすい発言だと思っていた数々の言動は、すべて言葉通りに捉えてよかったのかもしれない。

「どうしてあんなに優しくしてくれたんですか?」
「どうしてだろうな。かわいいと思ったからか」
「それは……関係あるんでしょうか」
「あるんじゃないか?」

 すぐに眠るはずだったのに、春臣さんが手をほどいて覆いかぶさってくる。

「寝るんじゃなかったのか」
「……今もそのつもりです、けど」
「本当に?」

 額に口付けられる。
 ぎゅっと目を閉じると、瞼と目尻にもされた。

「もう遅いのに……」
「明日早起きすればいい」
「……春臣さんって、そういう所ありますよね」

 欲しい――と声に出さずとも伝わってくる。
 それを感じてしまえばもう、私は拒めない。

「寝坊したら怒ります」
「怒った所は見たことがなかったな」
「……わざと私を怒らせようとしないでくださいね」
「どうすれば怒る?」
「人の話を聞いてください」

 文句を言うと、春臣さんは子供のように目を細めて笑った。
 こんな風に笑うこともあるのだと知ったのは、本当に最近のこと。

「まあ、怒った所より笑う所の方が好きだな」

 私が油断している時に限って、そういうことを言う。
 胸を甘く震わせた言葉は、そのまま私の中に沈んで大切にしまわれた。
 キスが落とされる。
 初めての夜にされた時よりももっと優しく、もっと多く。
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