記憶の中の貴方
◆君の苦手分野
「証明問題なんて滅べばいい」
後ろから怒りの籠った独り言が聞こえてきた。
振り向くと、志鶴ちゃんは今日の五限に提出しなければならないプリントとにらめっこをしている。
それは数学の証明問題で、解答を書くスペースに何度も同じ場所にシャーペンを当てている。
その場に黒の点が密集していく。
「志鶴ちゃん、数学は得意なんじゃ」
「私が好きなのは計算だけで、証明は嫌い」
食い気味に否定された。
「どうして?」
「答えが一つじゃないから。何をどう書けばいいかもわからないし」
なるほど、と頷きはするけど、証明問題をあまり苦手としていない僕は、納得していなかった。
「でも、証明だって答えは一つだよ」
志鶴ちゃんは僕を睨んだ。
適当に相槌を打ったのは間違いだったらしい。
「文章で答えるのに、答えが一つなわけないでしょ」
「使う定義は限られるよ。それを、誰が読んでも理解できるものにするだけ」
「それができたら苦労しない」
志鶴ちゃんは机に突っ伏した。
見ていないはずなのに、的確に僕に消しゴムのカスを投げてくる。
「そんなに難しく考えなくてもいいんだよ」
志鶴ちゃんの右手首を掴みながら言うと、志鶴ちゃんは顔を上げた。
後ろから怒りの籠った独り言が聞こえてきた。
振り向くと、志鶴ちゃんは今日の五限に提出しなければならないプリントとにらめっこをしている。
それは数学の証明問題で、解答を書くスペースに何度も同じ場所にシャーペンを当てている。
その場に黒の点が密集していく。
「志鶴ちゃん、数学は得意なんじゃ」
「私が好きなのは計算だけで、証明は嫌い」
食い気味に否定された。
「どうして?」
「答えが一つじゃないから。何をどう書けばいいかもわからないし」
なるほど、と頷きはするけど、証明問題をあまり苦手としていない僕は、納得していなかった。
「でも、証明だって答えは一つだよ」
志鶴ちゃんは僕を睨んだ。
適当に相槌を打ったのは間違いだったらしい。
「文章で答えるのに、答えが一つなわけないでしょ」
「使う定義は限られるよ。それを、誰が読んでも理解できるものにするだけ」
「それができたら苦労しない」
志鶴ちゃんは机に突っ伏した。
見ていないはずなのに、的確に僕に消しゴムのカスを投げてくる。
「そんなに難しく考えなくてもいいんだよ」
志鶴ちゃんの右手首を掴みながら言うと、志鶴ちゃんは顔を上げた。