記憶の中の貴方
「リラックス効果がある、アールグレイです。光輝さんほど美味しくはないと思いますが、よかったら」


白木くんの笑顔に、覇気がない。
なんだか申しわけなくなってしまい、白木くんから目を逸らす。


そっとカップを手に取ると、香りが漂ってくる。
光輝に作ってもらっていた紅茶の香りで、目頭が熱くなった。


そしてそれを喉に通そうとしたとき、店内の空気を壊す、大きな音でドアが開けられた。


このタイミングで、この訪れ方。
私は誰が来たのか、予想がついた。


「すみません、まだ開店前ですが」
「いや、客ではないの」


声を聞いて、予想通り、先輩だとわかった。
私は振り向かず、カップを口に着けたまま固まる。


「少しお話を伺っても?」
「……光輝さんのこと、ですよね」


バカだ、と思った。
詳しく聞く前に、こちらからそんなことを言ってしまえば、疑われるに決まっている。


「……どこでそれを?」


先輩の目の色が変わったことが、見なくてもわかる。


「彼女に聞きました」


そう言われて、振り向かないわけにはいかない。
カップを置き、椅子に座ったまま回転する。


「さっきぶりです、先輩」


私を睨む先輩の後ろには、伊藤がいた。
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