記憶の中の貴方
伊藤は私から目を逸らし、警察手帳を取り出した。


「……木瀬、ここにいたのね。ちょうどよかった」


先輩はため息をつきながら言った。
怒られると思っていたため、どう反応すればいいのか迷った。


「矢場光輝が殺される間際、矢場と電話をしていなかった?」


先輩の質問に、ただ頷いた。


「木瀬はあの事件のこと、誰に聞いた?」


話の流れがわからなかったが、何を聞こうとしているのかは、なんとなくわかった。


それは白木くんに聞いたときよりも、厳しい言い方だった。


「……誰にも聞いてません。光輝と電話をしていたときに、光輝が誰かに襲われたような声がして、そのまま電話が切れたので、嫌な予感がして」


これでは、先輩は納得しない。


私への疑いは晴れない。


「矢場光輝が殺された午前七時ごろ、お二人はどちらに?」


スイッチが入ったかのように、先輩の私への態度が変わった。


「待ってください!俺たちには光輝さんを殺す理由がありません!」


疑われているとわかった白木くんの反応は、普通だろう。
だが、それは少し逆効果だ。


慌てて否定すれば、何かを隠していると思われてしまう。


「白木くん、今は素直に答えたほうがいい」


興奮気味の白木くんを落ち着かせる。
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