夜を迎え撃て
「星村! 星村どこだ、星村!!」
「恭平っ!?」
「来るって聞かなかったんです、無理に動いたらだめなのに誰か、お兄ちゃん止めてください!」
「星村!!」
無理くり病院を抜け出したせいで、身体中が痛みに悲鳴を上げている。学校の教室に辿り着くと授業中だったのかクラスメイト全員の視線が一気に刺さった。知るか。どうでもいい。それでも探した。呼んだ。叫んだ。俺を見て立ち上がったヒデを見つけると一気に踏み込んでその胸ぐらを鷲掴む。
「ちょっ…恭平、苦し…っ落ち着けって、」
「知ってんだろ全部…っどこやったか話せよ、あいつは!!」
「うちの病院にいる」
声は、よっちゃんからだった。
もう世界がそれしか見えていなかった。その他の全部が透明になったみたいで、ヒデから手を離しゆっくり席を立った紺野目掛けて距離を詰める。そのまま同じようにネクタイを掴んで引き寄せると目と鼻の先で問いかける。
「───…お前」
なんで隠した。なんで嘘ついた。なんで早く言ってくれなかったんだ。
確かに怒っているのに、泣いていた。悲しかった。感情はもう制御が効かずにめちゃくちゃで、体がこれ以上にないくらい熱を孕んでいて、同じように瞳に冷静な青い炎を灯していた相手が瞬間、俺の胸ぐらを鷲掴む。
「こうなるのわかってたからだよ」
「っ」
「───考えたことあるか。さっきまで普通に隣で笑ってた友人が急に事故ったって深夜に親から言われていざ病院行ってみたら意識不明の重体で、どうなるかわからないって言われながら集中治療室の前で一晩気が気でない時間ずっと過ごしてやっと夜が明けたと思ったら昏睡状態いつ意識が戻るかわからない、連日必死な思いで呼びかけても反応しない目覚めない、そんなお前に毎日妹が、ヒデが、おれたちが!! どんな思いしてたかお前考えたことあんのかよ!!」
青い炎は、怒気を超えて泣いていた。
ヒデも、妹もそうだった。言われて振り向き、怒りながら、それでも大粒の涙を流してくれる人たちを俺は蔑ろにしようとしてたこと。その気はなくても、どんな嘘よりも裏切りに近い、自分を投げ打ったその業。一筋流れた涙をすぐさま手で振り払ったよっちゃんは、斜め下を見てぶっきらぼうに呟いた。
「放課後、15時30分。教員用昇降口で待ってろ」
「…よっちゃ」
「ちゃんと連れて行く。けど一旦病院に戻れ、生憎おれもヒデも学校だ。その調子じゃ静止振り切ってきたんだろ、おれたちもうガキじゃないんだから夕方から外出出来るよう謝って大人しくすんのが筋だ。
おれは悪いことをしたとは思ってない。お前は今言ったこと、頭冷やして一度よく考えろ。話はそれからだ」