夜を迎え撃て
なにが良かっただ。なにがエンジョイだ。
他人事だからって好き勝手言いやがって、医者って生き物はやっぱ変わり者ばっかなのか。大勢の患者を見ていたら新鮮味が損なわれて、人を人とも見れなくなって、そんなだから変わり者だとかって罵られるんじゃないのか。
「あー…ダメだ落ち着け。物事を斜めから見るのはよろしくない、自分の物差しで人を推し量るな。けどすっげーむかつく、どうするよこの憤り」
うーんと頭を抱えて、とりあえず一旦冷静になりレオナちゃんから返してもらったスマホで円にメッセージを入れておく。
【悲報
盲腸で入院延長】
改めて文字に起こすとかえってムカついてもう一度ゴミ箱を蹴る。今度は勢い余ってばたん、と倒れてしまって、放っておこうと通り過ぎてから、やっぱり出来ずに逆再生の動きで散らばった紙くずを拾い上げる。
「ゴミ拾いとは精が出るな」
何やってんだろうとか、なんか泣きたくなってきたその時だ。遠くに転げ落ちた紙くずの最後に手を伸ばすと、大きな厚みのある手がそれを拾い上げた。
スリッパ、若草色の患者衣に羽織を纏った白髪の仏頂面。背筋のピンと張ったへの字口の老人は、俺を見下ろしたまま小首を傾げた。
「小僧、老いぼれの酔狂に付き合う暇はあるか」
☾
「なかなか筋がいい」
背筋のピンと張った老人、(以降じいさまと呼ぶ)に言われるがまま後に続くと、彼が俺のいる部屋の一個下の階に入院していることがわかった。
大部屋、縦並びに表記されたいくつものネームプレートの字の中で松江《まつえ》宗山を見つけ、きっとこの名前だ、と疑うことなくそう思う。