夜を迎え撃て
拳を向けたら一瞥をくれて無視された。
ミオの大きな猫目が、俺を見上げて睨み据える。
「だったらまず腹くくれ」
「腹?」
「みんなそれぞれここにいる事情や理由を抱えてる。
ここの一員になるからにはそれを把握する必要があるのも事実だよ。二度は庇い立てしないからな」
☾
「ここにいる僕たちのことをもっとよく知りたい?」
ミオがどこかに行ってしまって、頼みの綱は拓真しかなかった。
生き方の正解を年下に縋るのもいかがなものかと思うが、ここでの生活は拓真の方がずっと先輩だ。それがどれくらいの期間かわからないけれど、あと4日でミオと同じ場所に立つには、手っ取り早いショートカット。すなわち情報収集しかない。
自分の病室で広辞苑のような分厚さの本を開いていた拓真は、くすりと笑ってからぱたんとそれを閉じた。
「勉強熱心ですね」
「今のお前に言われたくないです」
「学校行けないですからやっぱり、遅れは取り戻さないと」
「それ医学書だろ。今時の小学校は医療分野に特化してるんですか」
「自分を侵食する何かって気になりませんか。得体の知れないものだと怖いですけど、正体がわかれば理に適って納得出来ます」
「知りたくないよ普通…その方が怖いだろ」
「どうってことないです。今の医療じゃ太刀打ち出来ないこと、わかってるので」
さらりと言ってのける拓真に、かける言葉が見つからなかった。それが、彼の戦っている病が不治である、と遠回しな告白だったにも関わらずだ。
じゃあせめてこの子のために今何が出来るか。それを得るのに有益な情報は拓真の手中にあって、それをふんだくって力を貸すのも恩着せがましいし、違う気がした。拓真がそれを望まないこともわかっていた。