夜を迎え撃て
「恭平さんは、好きなものは先に食べますか、それとも最後に残しておくタイプですか?」
唐突すぎてえっと声を上げる。
「…えっと、先かな。昔は後だったんだけど」
幼い頃はてんで、毎年一度だけ自分が主役になって食べられる誕生日ケーキのイチゴが好きすぎて、ホイップから丁寧に取り出しては最後まで取っておくクチだった。
だが時間をかけてショートケーキを堪能するあまり、妹にいらないものだと勘違いされ食べられてしまい大喧嘩になったことが通算5回以上あり。(ケーキに留まらず他のご馳走も換算して)
以降、好きなものは先に食べてしまわないといけないという結論に至った。弱肉強食。世の中の縮図は、まず家庭を通して学ぶものである。
満腹になってからより、目の前にして美味しいと感じられるときに得た方がより幸せってのもあるけど。特例、未だに最後じゃないと嫌なショートケーキの苺は除き。
「“盲点は迂回によって核心に基づく”」
「は?」
「答えは正解です。恭平さんが拾うべきはいま、いわゆる核心であるミオさんでも僕でもない。急がば回れです。心当たりがあるんじゃないですか、僕のところにはそのあとで来てください」
「遠回し過ぎてお前の言ってること全然わかんねーよ」
焦れったい、と歯を食いしばって頭を掻きむしるとあはは、と拓真が無邪気に笑う。いやあははじゃなくて。とか思っていたらそいつは朗らかに微笑んだ。
「見つけてあげてください。双子はかくれんぼが得意です」
☾
松葉杖で病院の床を蹴ると、てんけてんけ、と間抜けな音が鳴る。
一般病棟から小児病棟へと順に隅々まで。大人になると視点が高いから子どもが隠れる場所はつい見落としがちだ。だからより一層気を配って、本棚の裏、トイレ、病室、中庭に至るまで。
細心の注意を払って探していると、中庭へと続く入り口の壁沿い。病棟側の小窓から、イガグリ頭が見えた。