夜を迎え撃て
一日目
目覚めたら、自分を家族や友人が取り囲んでいる絵面なんてのはどだい映画やドラマだけの話で、実際はそうでもない。
それが危篤や峠だったなら話は別かもしれないが、無人の大部屋でひとりだった俺は見回りと思しき小太りの看護師に「あ、起きた?」なんて言われて。
これ何本に見える、一本、今日は何日、○月×日。そんな定番のやりとりをしていたら、ばたばたという騒音を連れて妹が病室に飛んできた。
「もうバカ! ほんとバカッ!! 友だちとふざけてて階段から落ちるとかほんと何考えてんの!?」
「やーもうマジで驚いた。こう、ヒデとよっちゃんに昨日の原田の一発KO実演してたらつい熱くなっちゃってー、階段と気付かず、ずるっと」
「本当に心配したんだから!」
「こんな思いしたの小三の時以来だなー」
うんうん、と腕組みして感心していたら左脚のギブスをバシッと殴られる。
「い゙っ…、てめぇっ! 折れてんだから加減しろ! 使い物にならなくなったらどーしてくれんだ」
「別にろくすっぽ使い道ないくせに大口叩かないでよねバカにぃ!」
「くーそー。つーかそうだよ二人は。いねぇの」
「知らない、昨日は来てたみたいだけど。てか階段から落ちて丸一日寝こけてるとかマジだっさい。理由聞いて心配して損した」
「うっそだあー。そんなこと言ってお前目ぇ真っ赤じゃん泣き虫円、いでっ!」
からかって見せたら今度はりんごを投げつけられた。食べ物を粗末にするやつがあるか、と叱るのに、知るかと言わんばかりの勢いで入院に必要なものが入った紙袋の中身を押し付けられる。
「って、お前もう帰んのかよ」
「お母さんにおつかい頼まれてるの」
「あっそー。なあ、フルーツバスケット今度持ってくる時はバナナにして。りんごより好きだ」
「はいはい」
「あ、あと可哀想なお兄ちゃんが元気になる雑誌かなんか買って来てもらえると」
「死ね変態!」