夜を迎え撃て
「ミオのは愛の拳だろ」
「…でもミオは前に、愛のあるぼうりょくはないっていってた」
「じゃあ聞くけど。ミオに拳骨されてお前、心の底から嫌われて殴られたって思ったのか? お前の中で、それは暴力だったのか?」
「…」
「ミオはお前が突出した理由もなく、大人嫌いって建前だけでしたたかに他人を傷つけたから怒ったんだ。
確かに場合によっては拳骨は良くないかもしれない。けど、好きなら弁解の余地くらい設けさせてやれよ」
考えるように俯いてしまうセナに、そっと軽く手をかざす。
それだけでびく、と過剰に反応を示すそいつに一度こっちも手を結んで。それでも解いて頭にそっと乗せてやったら、ぽろりと涙が溢れた。驚いたように見開いた目がこっちを見るから、気持ちばかり笑ってみせる。
──────とそこで、ふわ、と頭の上に何かが乗っかった。
シロツメクサの花かんむりだ。建物の陰から現れたルナは、自身の細くさらさらな茶髪を跳ねさせて満面の笑みで指をさす。
「せっちゃんみ───っけ! ルナの勝ちーっ」
「…あーあ、見つかっちゃった。しょうがね。それは取っとけ。おれの妹が作った花かんむり」
「…ありがたいけど男子高校生に花かんむりは痛」
「ああ?」
「嘘です」
すげえ嬉しいな〜!! ととち狂ったようにルンルンして見せたらルナににこにこ笑顔を向けられた。ああ今ここに同級生とかいなくて良かった。苦笑い一つできゃっきゃと声を上げるルナの頭も撫でてやったら、ぎゅーっと腕に抱きつかれる。可愛い。
あんまり可愛いすぎて、保育園の先生目指そうかなとか本気で考え始めてしまうんだから、単純な生き物だなと我ながらそう思う。