夜を迎え撃て
 

 真剣に絵本を選抜している手前、いよいよ逃げるタイミングを見失った。

 やられたな、と思いつつ段差に腰掛けていると、彼女は結果、選りすぐった三冊を手にして戻ってきた。絵本特有の厚みのなくて平べったいそれらだ。見てみるとどうやら同じ作者らしく、どれも動物たちが表紙を飾っている。

「読んでやるのはいいけど、俺本読みあんまり上手くないぞ?」

 小学生の頃なんかは特に、国語の授業で句点ごとに教科書を読んでいくのなんかが定番だったけれど。俺は昔っからそういうのに悲しいかなセンスがないのか、心を込めていないつもりではないのだが、どうにも棒読みになってしまう癖があった。

 漢字が読めないだとか、噛み噛みになってしまうよりかはいいじゃないかとその頃の友人たちは俺を慰めたが、よりにもよって俺の席の前後がこれまた音読の上手な女子だったりすると、加えて内容が感動的なものだったりすると、心を込めて物語の中に連れて行ってくれる彼女たちから俺に切り替わった瞬間、まるで夢から現実に引き戻されたみたいにクラスは静寂に満ちるわ、国語教師のそのまま読みたかったと言いたげな目線が刺さって仕方なかった(自覚があるが故の被害妄想かもしれないが)。

 もはや軽いトラウマだろこれ。子どもの恐怖心とかってこういう成長過程で人知らず植え付けられるんだよ、なんて遠目で過去にトリップしていたら、ちょん、とその子が俺の隣に座った。

 鼻にチューブがついている。

 目で追い、順番に読むものなのだと勝手に解釈して膝に置いた一冊を取ろうとすると、ぺ、と引っこ抜かれた。

「これは、いい」

「え? じゃあなんで持ってきたんだよ」

「これとこれよんで」

「全然聞かねえじゃん」

 人の話をよ。もういいけど慣れたから。しかもちゃっかり二冊棒読みするんだ俺。どうなっても知らんぞ。

「………"アナグマのもちよりパーティ"」

 本を読んでもらえることがよっぽど嬉しいのか、それまで感情の起伏がまるで見えなかった少女は足をパタつかせ、俺の足に手を置き、続きを待つように笑顔を浮かべて目を閉じていた。

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