夜を迎え撃て
「ねえミオちゃん、何も私たち、あなたをどうこうしようとして言ってるんじゃないの。“集中ケアルーム”に入ったら、ここよりもっと貴女の病気を知ってるエキスパートの先生たちが、あなたの病気の改善のために頑張ってくれるのよ。先進医療も備わってる」
「…」
「自分の意志で行った方が楽だと思うな」
「…」
「…どうしても嫌だって言うのね」
説得を続けていた、ミオの専属カウンセラーと思しき小太りの女性が退く。彼女が目配せをする前に、この空間に明らかに浮いている感染予防着を纏った連中が、ミオを取り押さえた。
「いやだ離せ! 隔離病棟なんかに行きたくない!」
「ミオちゃん君は病気なんだよ。君が思ってるよりずっと重篤な。このままのさばらせてるわけにいかないんだ。アレを」
予防着の合図で看護師が何かを手渡す。あれは───注射器だ。
「顔抑えてろ噛み付くぞ」
「大丈夫だよーちょっとチクッとするだけだからねー」
「やだっ…───やだやだ、嫌!! 恭平!!」
体が先に動いていた。全力で予防着に飛びついて注射器をふんだくる。そのまま他の医師が間合いに入ってくる前に、注射器を予防着医師の首に突き付けた。
あーやっべ俺足折れてんの忘れてた。
松葉杖を置いて走ったのが原因だ。突如気が遠くなるような左足の激痛に見舞われて首を擡げる。取り押さえた予防着が抵抗した瞬間、その注射器を男の腕に突き刺した。
鎮静剤か何かだろう。目を瞠ったかと思うと、口を開けてかーかーと鼾をかき出す予防着を看護師に投げて渡す。
「誰だ、何をやってんだお前は! 頭おかしいんじゃないのか!?」
「いやそれこっちの台詞だわ! 何やってんだよあんたら、こんな注射器使ってさ、強引に隔離病棟に連れてこうなんてまともな人間のすることじゃないだろ。ミオの気持ち全然尊重してないじゃん」
「毎晩彼女のためだけに人員を割くわけにはいかない」
「そんな理由で、」
「小児病棟の患者数名が不眠・怯え等の症状を訴えている。いずれも彼女の病室に近い新規の患者だ」