夜を迎え撃て
 

「は、はぁ? 10年かかって治らなかった病気よ!? そんなこと出来るわけ」

「お願いします」

 自分勝手で傲慢だ。他人のことを顧みていないに違いない。それでもミオを救いたかった。ともすれば崩折れてしまいそうな希望にすら、今は縋る他なかった。深く頭を下げる俺に、医師たちが絆されたのかはわからない。


「せいぜい悪足掻きするといい」


 少しの間があってから誰かがそれだけ言い残して、顔を上げた時にはもう、大勢の医師たちが背を向けて歩いていくところだった。

 傍らにはミオがいる。

 何を言うべきか、と考えていたら向こう側から誰かがやる気のない足取りで歩いてきた。金髪黒縁眼鏡のナース、レオナちゃんだ。

 

「いたいたー。もー探したんだからーちょっとだけ」

「ちょっとかよ」

「急にいなくなんないでよ。忘れてんでしょ、今からきみ手術だからね。盲腸」

「そうだった」

「はいGO GO」

「わーかったから押すなって」

 それが仮にも患者に取る態度か。足折れてて早く行けない俺の背中を片手ではよ、って誘導するレオナちゃんに渋々その場を離れる。

 あー今から手術か憂鬱だな、と思ったとき、背後から「恭平」と呼び止められた。

 

「…ありがとう」

「…まだこっからだよ」









 残された時間は、退院までの三日間。

 


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