夜を迎え撃て
五日目
「ただいまー」
小児病棟、多目的ホールの一角。扉を開けて帰ってきた俺が上着を脱ぐ仕草をすると、奥からぱたぱたとルナが駆けてきた。
「おかえりなさいあなた、おしごとお疲れさま」
「いやーマジで疲れたよ、取引先の新人がかくかくしかじかでぽんこつでさぁ」
ルナと俺は、夫婦である。
もちろん本当のではない。というのもただいま、ままごとの真っ最中なのだ。たいへんねー、なんて言いながら俺の脱いだ上着を受け取る仕草まで忠実に再現するルナは、よもや5歳児とは思えない演技力ですっかり俺の奥さんに成り切っている。
「汗かいたでしょ。お風呂にする、ごはんにする、それともわ、た、し?」
「お前それどこで覚えたの」
「ヤダもう早く座って♡ 今日はアナタの大好きな煮っころがしでーす!」
「俺の好きなもの渋くない?」
マジでほんと5歳児かお前。背中にチャックとかついてんじゃあるまいな、と絶妙な設定を訝りながら椅子に座る。同じように隣に腰かけたルナが、おもちゃの器と箸を取って、それからふー、ふー、と息を吹きかけた。
「はい、あーん♡」
「…いや俺足折れてはいるけど腕は使えるから。自分で食べれるよ」
「だめだよ! 新婚さんなんだから! 前に新婚さんはみんな奥さんが旦那さんにあーんってするって言ってたもん」
「それどこ情報だよだいぶ稀だぞ!」
「………恭ちゃんルナにあーんして欲しくない…?」
うる、と涙目で見上げられてうっと言葉に詰まる。息子役で待機しているセナの目が光ったように見えてぶんぶん顔を振るといや、と笑ってみせる。そのままぱく、と食べる仕草をしたらふわ、ともちもちのほっぺたが落ちんばかりに破顔した。
「美味しい?」
「うん美味しい」
「えへへーっ。そしたら今度はこっちね」
演技なのに心底嬉しそうに食卓を囲う姿が目に見えるんだから凄い。ルナの一種の才能かもしれない。一つ一つの料理を説明しながらこれはね、なんて語る姿は愛嬌で溢れてるし、見た目だって目も大きくて可愛らしいから、きっとこの先大きくなったらモテんだろうな、なんて親目線で見ていたらぐい、と俺とルナの間に誰かが割って入ってきた。
ミオだ。