夜を迎え撃て
六日目
「あれ? っかしーな」
病室のベッドの上で、スマホを左右に振る。
今朝方、円から着信があったからだ。折り返そうとすぐさま番号をタップしたのに途中で切れてしまって、途中で切れてしまって…を、もう三回くらい繰り返している。
「無理だよ、うちの病院電波悪いから」
レオナちゃんだった。
朝の検温と包帯交換のキットが乗ったワゴンを押して現れた彼女の髪は今日も今日とて金髪で、眼鏡の分厚い黒縁が邪魔して横からだと表情が読めない。
ので、今日は没収されないことがわかると懲りずにぶんぶん振ってみた。
「や、でも前までアンテナ一本とか立ってたのに」
「こういう医療施設とかって、患者のそういうのが医療機器に問題起こさないように基本立たないようになってんのー。ま、今時都心の病院じゃそれもないみたいだけどね。あいにくうちは、山」
次の機会を狙えと、検温と左足の包帯交換に移るレオナちゃんの指示で体勢を変えると、ビキッと電流のような激痛が走った。
「なぁレオナちゃん、俺ここんとこ絶賛調子悪いの、なんで」
包帯交換の合間なんて、もう耐えられたもんじゃない。
ここ最近、ずっとだ。盲腸の術後の容態は大目に見たとして、足に関しては日に日に痛みが増している気がする。
「ヤブなんじゃねーのこの病院」
「痛みが伴うのは生きてる証拠だよ、良かったね」
「良くはないだろ」
「死んだら何も感じなくなる。きみは生にのたうっているわけだ」
後ろ向きなボヤキが絶えない患者の口の処世術まで教わるんだろうか、ナースってやつは。36度2分、と記録に残すレオナちゃんの金色が、風に晒されて靡いた。
絹みたいだ、とそれをベッドの上、枕を抱きながらうつ伏せで見ていたら、この前の情景が浮かんだ。
廊下で発狂しながら酒瓶と煙草の箱を水没させた、あのレオナちゃんの姿が。