夜を迎え撃て
「やっぱ看護師ってストレスたまんの?」
「命、扱ってるからねえ」
「酒瓶ぶん投げたくなるくらい?」
レオナちゃんは狼狽えたりしなかった。
傷つけたいわけじゃなかったけど、なんだかそんなニュアンスにもなった。もういいとも思う。せめて溜まった鬱憤をどうにか出来る、捌け口にでもなれたらいい。
「良かったじゃん。俺の担当、おろされなくて」
「それはきみの方でしょお」
「そうとも言う」
「嫌いなんだよねぇ、酒とか煙草とかするひと」
キン、とそこで耳鳴りがする。
目を薄く閉じると浮かぶ景色。春の日。斜向かいの家、その門扉の前でやり取りをする首から上の見えない大人が見えた。こっちに気がつくと残像は振り向き、手を振る。
消える間際、金色の筋が光った。
「好きだったの」
「え?」
「彼氏がね。酒だの、煙草だのが。身体に障るって言うのに辞めるだの辞めただの嘘ばっか。結局私に隠し通して、隠し通せてもいないのに続けるから、私は大っ嫌いだった。
だって全部持ってっちゃう。夢も、未来も、全部」
「…」
「だから壊してやっただけ」
「ふうん」