夜を迎え撃て
薄目で意気消沈する俺にルナが「らぶらぶ?」と聞いてきて、左右にぶんぶん首を振ったらセナに口笛を鳴らされた。
そんで始まる謎の冷やかしメリーゴーランド。初めはハイハイすぐ終わるだろって黙って聞いていたのに、終わるどころかエスカレートしてぐるぐる人の周りを走り回った挙句げし、とセナに足を蹴られてブチンと堪忍袋の尾が切れる。
「うるせえな! もうあっち行けお前ら!!」
「わーい恭ちゃんがおこった! 怒ってもすてき!」
「複雑!!」
「ルナ、かくれんぼしよう。おれが鬼な、10秒数えるあいだにかくれて。はいいーち」
「きゃーっ!」
セナの声あって、ルナがぴゃっと廊下の向こうへと駆けていく。走んな転けるぞ、なんてもう父親みたいな目線で言ったら、近くにいたセナがふと俺を見上げた。
「恭平」
なんだやんのかこら。さっき蹴られた脛地味にいてーぞぼけと身構える俺に向いたセナの顔は、子どもながらに、穏やかだった。
「ありがとな、ルナと遊んでくれて」
「…いや俺鬼しないよ?」
「いまじゃなくて。今日までのこと」
「あぁ…、って。なんだよ急に改まって、気味悪い」
「さいごくらい、すなおになっとこーって思ってさ。あしたなんだろ、たいいん」
そう言って頭の後ろで手を組むセナの言葉に、俺自身がはっとした。そうだった。俺は、明日で退院するんだ。
さては寂しいんだなこいつ、可愛いとこあんじゃねーかとからかってやろうとするのに、セナの顔があんまり凛々しいからその気も吹っ飛んでしまった。妙な間だった。子どもなりに寂しいって言われた方がまだこっちも楽だと思えるくらい、セナが神妙な面持ちで言うから。
「おとなはきらいだ。でも、恭平やミオをみてると、ちょっとだけ、わるくないかもなっておもえた」
「おーい…最後の最後で泣かすようなこと言うなよ別れが惜しくなるだろ」
まだ明日までいるけど、と感極まって抱きしめてやろうとすればさらりと避けられて、結果俺は自分自身を抱きしめる。
「ま、お前みたいなずうたいでかいのいなくなったら、やっとしょーにびょうとーもきゅうくつじゃなくなるってもんよ」
「やっぱりやなやつだなお前!」
「ミオならびょーしつにいんぞ。ごゆっくり」