夜を迎え撃て
 

「よっ」

「…びっ、くりした…! きっ…恭平…!? おま、何して」

「夜這い」

 窓のサッシに頬杖をついて真顔で言ったらミオが今にも悲鳴をあげかけた。すかさず身を乗り出して彼女の口を塞いだら勢い余って頭から病室にすっ転ぶ。もみ合いになりつつすかさずミオにしぃっ! と人差し指を突き立てた。

「冗談だよ! 真に受けんな。…そう、俺がわざわざ病室を抜け出してまでここへ来たのは他でもない」

「星、観に行くの!?」

「(いやラーメン食い行こうって)」

 なんで女って星とか月とか好きなわけ。

 でもあまりに食い気味でミオがきらきらと大きな目を輝かせて言うから素直にラーメンって言えなくて、ドヤ顔で「そうだよ」って言ってしまった。

 口に出してから視界から遠退いていくラーメンが別れを告げた恋人の姿とも重なって(無論、いた試しはない)、でもミオが両手で口元を抑えて今にも地団駄を踏みかねないくらいあんまり喜びを露わにするから、もうそれでいいかなんて思った。

「ついてきて! 天体観測に最高のスポットがあるんだ」

「俄然ノリ気だな、おまえ」

「当然! 昔何度か病室を抜け出して観に行ったことあるからお手のもんだよ」

「前科あんのかい!」

「でも誰かに攫ってもらうのは初めてだよ」

 その時ばかりは、彼女はいつもの首のくれたTシャツに草臥れたスウェットではなかった。ネイビーの生地に星屑が散りばめられたパジャマ。その上に病室の椅子に掛かっていたカーディガンを羽織ると黒髪を翻すミオは、振り向いて意味ありげに俺を見た。

「さっきの恭平、なんかあれみたいだった」

「…“王子さま”だろ」

「ピーターパンみたい」

「そこは王子さまって言えや」

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