夜を迎え撃て
ああだこうだと言い合いを始める両親のやりとりには「また始まった」と耳を塞ぎ、その紺色の真ん中にぽっかりと浮かぶ月を見上げる。
光は昼間の太陽にも劣らない強さで、星はほとんど見えなかった。
そういう日、月明かりに邪魔されてほとんどの星は見えなくなってしまうことを知らなくて、月が出る夜は星が消えてしまうといつまでか誤解していたっけ。それを誰かに訂正されて、夜には目を凝らすようになった。
月明かりの眩しい夜、懸命に光る星を探すのはまるで自分の使命だなんて、そんな大それたことを思っていたのかもしれない。
閉ざした視界の中に、ぽつり、ぽつり、と光が浮かんでくる。
足元にはバケツいっぱいに溜めたスパンコール。それを思いっきり空に向かって散りばめて、無数の満天の星が降った。届かない場所に棚引くオーロラのような極光と、四方にさんざめく光が所々を走って、俺はそれを追いかけるようにひた走る。
と、突如足場がなくなって数々の光をまといながら、体は速度を増して、やがて着地と同時にゆるやかに、足先から着地した。
空と海が一緒になったような世界は、地球にもあるウユニ塩湖みたいだ。
足踏みごとに波紋を広げる大地は幼い俺を映して、あんまり幻想的な世界に映画みたいだなんて浮かれて、この夢が覚めないことだけを願った。
泣き声がした。
振り向いた場所に、ひとりで女の子が泣いていた。
「………あの、」
声をかけて、俺は俺が自分の手に星を握っていることに気がつく。星は蒼白く、小ぶりで、握っているだけで俺の素肌を向こう岸まで透けさせてしまう。
きっとそう長く持っていてはいけないものだと、子どもながらにそう思った。手離さなくてはならない、と潜在的に思うのに、光に魅入られてしまう。はっとして顔を上げると、彼女の頭上にも同じ星が光って堕ちた。辺り一面を照らす閃光に眩しくてたじろぎ、明かりの消失と同時にその先を目で追う。
光はもう、彼女の両手に包まれていた。その光はだめだ。そう、伝えようと口を開くのに声が出せない。精一杯声を張り上げようとする。伝えようとする。届け、届け、届け。
「届け!」
やっと張り上げた声に、俺の声だけが星の夜を反響する。地面に亀裂が走って空を行き交う星が遠のく寸前で、彼女が不思議そうに振り向いた。
そこで、いつも、夢は終わってしまう。
記憶にも止まらないこの映像を見るたび、俺はどこかで初めてじゃない、と思っている。現実じゃない。過去じゃない。なのにきっと、たぶん、心のどこかで、探しているんだ。
実在するのかもわからない、泣き虫な彼女を。