僕に言葉を、君には歌を
だから、今更会って彼女に何を言えばいい。
何をしても落ち着かなくて、僕はテレビを眺めるけど全く内容が頭に入ってこない。
ふと時計を見た瞬間、携帯電話が鳴る。
さっき電話をかけてきた友人だった。
「もしもし?そろそろだって言ってたよ。本当に来なくていいの?」
「行く資格なんてないから。彼女だってその後、彼氏とかいたんじゃないかな」
苛立つようなため息が聞こえる。
「あのさ、お前のインタビュー記事見せてもらったけど、あれ、あの子の言葉じゃないの?」
僕は、答えなかった。
もう一度深いため息が聞こえる。
「あの記事、彼女も読んでたらしい」
「えっ」
「彼女の荷物に雑誌が入ってたって。彼女の親友の子が教えてくれた」
電話を切ってすぐに友人から自分の記事が送られてくる。
『すごく嬉しそうに話してたってさ』
僕は一度も読んでいないその記事を読んでいく。
-------------------------------------
『ここまで自分を支えてくれた言葉はありますか』
----『君の歌は、みんなを惹き付ける』ですかね。高校時代に言ってくれた人がいて。声楽を続けていくうえで落ち込んだ時によく思い出しますね。
とても愛おしい特別な思い出を語るように笑って語ってくださいました。
-------------------------------------
特別……。
その文章と一緒に自分の写真が載っていた。
こんな柔らかい表情で彼女を語るなんて、自分でも知らなかった。
そう思った瞬間、僕は友人に『行く』とだけ返事をして立ち上がった。
彼女に会いたい、と思った。
何も変わらないとしても、ただ、僕が彼女に会いたい。
そう具体的に思うのは、初めてだった。
ネクタイを締める手が震える。
鏡の中の冴えない男がさらに冴えない顔をしている。
何も持たずに玄関を飛び出して、自転車にまたがって走り出す。
雨がぽつぽつと降りだしてきたのも気にせず、ただひたすらに彼女に向かって。
目的地が近付いてくると、急に雨がやんだ。
そして雲がはけて青空が広がっていく。
あれだ。
空に白い煙が上がっていくのが見えた。
何をしても落ち着かなくて、僕はテレビを眺めるけど全く内容が頭に入ってこない。
ふと時計を見た瞬間、携帯電話が鳴る。
さっき電話をかけてきた友人だった。
「もしもし?そろそろだって言ってたよ。本当に来なくていいの?」
「行く資格なんてないから。彼女だってその後、彼氏とかいたんじゃないかな」
苛立つようなため息が聞こえる。
「あのさ、お前のインタビュー記事見せてもらったけど、あれ、あの子の言葉じゃないの?」
僕は、答えなかった。
もう一度深いため息が聞こえる。
「あの記事、彼女も読んでたらしい」
「えっ」
「彼女の荷物に雑誌が入ってたって。彼女の親友の子が教えてくれた」
電話を切ってすぐに友人から自分の記事が送られてくる。
『すごく嬉しそうに話してたってさ』
僕は一度も読んでいないその記事を読んでいく。
-------------------------------------
『ここまで自分を支えてくれた言葉はありますか』
----『君の歌は、みんなを惹き付ける』ですかね。高校時代に言ってくれた人がいて。声楽を続けていくうえで落ち込んだ時によく思い出しますね。
とても愛おしい特別な思い出を語るように笑って語ってくださいました。
-------------------------------------
特別……。
その文章と一緒に自分の写真が載っていた。
こんな柔らかい表情で彼女を語るなんて、自分でも知らなかった。
そう思った瞬間、僕は友人に『行く』とだけ返事をして立ち上がった。
彼女に会いたい、と思った。
何も変わらないとしても、ただ、僕が彼女に会いたい。
そう具体的に思うのは、初めてだった。
ネクタイを締める手が震える。
鏡の中の冴えない男がさらに冴えない顔をしている。
何も持たずに玄関を飛び出して、自転車にまたがって走り出す。
雨がぽつぽつと降りだしてきたのも気にせず、ただひたすらに彼女に向かって。
目的地が近付いてくると、急に雨がやんだ。
そして雲がはけて青空が広がっていく。
あれだ。
空に白い煙が上がっていくのが見えた。