あの日の空にまた会えるまで。
「ーーー…どういう意味?」
卒業式まであと1ヶ月を切った頃、登校した私に真央が慌てた様子で言い放った。
「だから、奏先輩と瑠衣先輩がもう二週間以上学校に来てないって…」
「ど、どういうこと…?」
「先生たちが家行ったり探したりしてるけど全然見つからないみたい」
意味がわからない。
一週間以上来ていない?見つからない?
真央は、何を言っているのだろう?
「奏先輩と同じクラスの先輩が言ってたの。もうずっと学校に来てなくて、家にも帰ってきてる様子がないって。3年生は今パニックだって。駆け落ちだって噂も流れてる」
「…っ」
「葵っ!!」
それはもう無意識だった。
鞄から取り出した教科書を机に詰める作業も放り出して、私は走り出した。ただ願ったんだ。最後に話をしたあの日から確かに2人で会うことも、校舎ですれ違うことさえ無かったけれど、それでも教室に行けばいつものあの笑顔で笑ってくれると思った。
言葉を交わすことも無いけれど、卒業式の日に待ってると言ったあの約束だけが私たちを繋いでいてくれたから。
だから、どうした?と笑いかけてくれると、思ったのに。
3年生の視線も気にする余裕なく、奏先輩の教室へ走った。
目的の場所につき、乱れた息を整える。扉に手を掛けて、ゆっくりと力を込めた。3年生の視線が私に注がれる。
ーーーどれだけ見渡しても、奏先輩の姿はなかった
「……きみ、奏の後輩の…」
近くにいた男の先輩が声を掛けてくる。
呆然としながらそちらに視線を向けると、その先輩は表情を変えて可哀想な者を見る目で顔を歪ませた。
その顔に思わず声を荒げそうになった。
その顔は何ですか、と。そんなに私が可哀想ですか、と。
そして耳に入るのは、残酷なほどの同情の声。
「……可哀想だよね」
「駆け落ちなんでしょ?」
「あんなに可愛がられてたのに…」
呆然とした。
体が動かなかった。
不意に吐き気すら感じた。
間違いであってほしかった。どこかに旅行に行ってたとか、ただの体調不良だとか。そんな些細な理由でもいいから、間違いであってほしくて、震える手で持ち込み禁止の携帯を取り出して奏先輩を呼び出した。
それなのに聞こえるのは、無情で無機質な『この電話番号は現在使われておりません』というアナウンスでーーー。
見えない約束で繋がっていた私の存在は、余りにもちっぽけなものだったのだと、そこで初めて思い知ったのだったーーー。