あの日の空にまた会えるまで。
悠斗とは中学3年の夏から高校3年の春まで恋人同士だった。すごく楽しい3年間だった。心から幸せだと思えるほどのかけがえのない日々を過ごした。そしておしどり夫婦と言われるほど、私と悠斗は仲が良かったらしい。実際、仲は良かったのだけど。
変わらず続いていくのだろうと思っていた日々は、気付けば愛ではないことに気付いた。それに気付いたのは悠斗の方だった。
「私たちは友達以上にはなれなかったんだよ」
「それ何回も聞いた」
確かに好きだった。心から好きだと思えた。けれど、仲が良すぎた故に私たちは、気付けば友だちに戻っていたのだ。異性と交流を持っても何も気にしない。悠斗が女の子と遊んでても、私が男の子と話していても、互いに気にもとめなかった。
さらに言えば、2人きりで遊ぶことはもちろん楽しいけれど、皆で遊ぶともっと楽しい。
お互いを大切に思う気持ちは本物だったのに、日が経つにつれて恋人らしいことを自然と避けるようにもなってしまった。それは私たちの関係が友だちから進めることができなかった何よりもの証拠だったと思う。
ただ、別れたからといって私たちの繋がりが無くなるわけじゃない。やっぱり悠斗の側にいると気は緩むし、信頼しているからこそこうして2人で過ごすこともある。私たちの関係性が恋人では無くなっただけで。
「あんた、中学のとき自暴自棄になってたじゃん?悠斗はそれを必死に支えてたのにさー」
「……昔の話だよ」
「あの時の悠斗の献身的な仕え方、見てるこっちが照れたくらいなんだからね」
「……」
返答することなく、私は笑みだけを返した。
笑えていたかは分からないけれど。
チクリと小さく痛んだ胸と、突然に姿を消したあの人が脳裏に過ぎる。それを振り払うかのように目を伏せた。思い出しても仕方がない。あれは過去のことだ。6年前のことをいつまでも引きずって、思い出しては心を痛めているなんて、どれだけ馬鹿なんだ。
「ーーー…昔の話だってば」
そう言って、私はお箸を動かす手を再度動かした。
ーーー時々、今でも夢に見ることがある。
隣には優しい笑みを浮かべるあの人がいて、背中に背負う鞄には青色のお守りがゆらゆらと揺れていた。
隣を歩く私の表情はとても幸せそうだった。あの頃、私はそんな顔を浮かべていたのだろうか。そう思うほどに私は笑っていた。幸せそうな笑みが、あの人を好きだと物語っていた。
2人で会うことが無くなってから、2人を唯一繋いでいた約束。
それは叶えられないまま、楽しいと思えた幸せな日々は、あの人の裏切りによって幕を閉じた。
たたただ憎んだ。
汚い言葉で罵った。
裏切りという結末を突きつけたあの人を、心底恨んだ。
あの人は最も残酷な形で私を切り捨てたのだ。
時折見る夢の中で、私は泣きながら懇願したこともあった。
忘れさせてくれ、と。
それでもいつまで経っても忘れられないのは、きっと終わりに出来なかったからだ。
本当の意味で終わりにできなかった。
終わりにさせてくれなかった。
だから、いつまでも心に住み着いて離れないのだ。
脳裏によぎるあの人の名を呼べないのは、自分なりの防衛線。虚勢ともいえるし、意地ともいえる気がする。
忘れろ、と毎日自分に言い聞かせているーーー。