あの日の空にまた会えるまで。
「そりゃそうでしょ。自分を弄んだ男に会いたいなんて思うわけないじゃん」
「……そうだな」
奏先輩が自嘲気味に笑ったのが背中越しに分かる。その声に切なさが含まれているのに気付かない私ではなかった。
中学時代、奏先輩の側にいたあの頃と、奏先輩が姿を消したあの日。私は一度として彼の想いを悟ったことは無かった。嘘をついた理由も、ただの後輩の私を側に置いた意味も、私は何年経っても奏先輩の考えていることを考えたことはなかったんだ。
どれだけ頭を捻ってみても、想像がつかなかったから。
彼が何を思って、何を考えて、何を見ているのか、私にはそれを欠けらも見出すことが出来なかった。
そんな奏先輩の心の中に、あの日から今まで、少しでも私の存在はあったということなのだろうか。その切なげな声に、そう思わずにはいられない。
「存分に悩めよ。悩んで迷って、今度こそ素直になれ」
「……」
「まぁ、お前に瑠衣が切れるわけないか」
ーーー…瑠衣先輩。
まだ……続いてたんだ。
そりゃそうだよね。あの日、奏先輩は瑠衣先輩と一緒に姿を消したんだ。それほどに大切な人なのだから、続いてるに決まってる。
考えなかったわけじゃない。ちゃんと頭の隅にはあった。再会してから今まで、瑠衣先輩の存在が無かったわけじゃないんだ。
「痛いとこ突くなよ」
「実際にそうだろ」
「……」
返答がないということは、そういうこと。蓮先輩の言う通りってことだ。
再度唇を噛んだ。期待してたわけじゃない。だから大丈夫。ねぇ、葵。何を期待することがあるの?ただ突然に再会しただけの話だよ。
たとえこの6年間、奏先輩の心のどこかに私がいたのだとしても、それはきっと罪の意識からだ。彼は優しかった。残酷なほどに、ただ優しかった。
ああ、私。
未練しか残ってなかったんだーーー。