あの日の空にまた会えるまで。
泣きそうだった。何の涙なのかは分からないけれど、涙が溢れそうだった。
思わず蓮先輩の服を握った。
私の頭を引き寄せている手のひらがポンポンと優しく動いたのを感じた。
「じゃあ俺ら行くから」
「……ん」
振り返っていた体を向き直し、蓮先輩は私を胸に抱きとめたまま一歩を踏み出した。
「なぁ、蓮」
少し歩いたところで再度奏先輩の声が聞こえた。蓮先輩が私を抱きとめたまま顔だけを奏先輩に向ける。
「こないだの電話でお前言ったよな。お前は何も出来ないんじゃなくて、しないだけなんだって。全てに言い訳を並べて逃げて、全部向こうのせいにして楽な方に逃げてるだけなんだって」
「それがなに?」
「その通りだと思うよ。あおちゃんは俺に会いたくないだろうって決めつけて、彼女のためだと言って俺は逃げてるんだ」
「……」
「お前の言うように俺に出来ることなんてなにもない。そんなの知ってる。分かってる。けど…」
一息置いて、奏先輩は続ける。
「俺はやっぱり、あおちゃんに会いたい。会って謝りたい」
「…っ」
奏、せんぱい。
「……それはお前の我儘だろ」
「分かってるよ。分かってるけど……」
「それに、いつだって逃げてばかりのお前が会いたいと思ったところでそれを行動に移せるのか?電話でも言っただろ。お前は結局何もしないんだよ」
「そうだよ。何もしないくせに会いたいって、自分でも呆れてるよ」
「俺も呆れてるよ」
そう言って、蓮先輩は「じゃーな」とひらひらと片手を振った。
「ごめん、引き止めて」
「おー」
今度こそと足を踏み出す蓮先輩だったけど、最後に足を止めることなく奏先輩に一言付け加えた。
「いつか、お前が真っ直ぐに葵ちゃんだけを想える日が来ればいいなって、俺は思ってるよ」
ーーーその一言を、私はあまり理解できなかった。
私はゆっくりとバレないように、後ろに視線だけを向ける。
大勢人がいるはずなのに、そこには1人の背中だけが私の目に映った。
ーーー奏、先輩
その背中を、私は涙を浮かべて見つめることしかできなかった。