擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 ──彼の照れスイッチって、どこにあるのかな。

「花屋に寄ったついでに、レンタルにも寄って、ブルーレイを借りて来たんだ。亜里沙の好きそうなホラー映画だけど、観る?」

 彼が手にしているタイトルは近年公開されたばかりのもの。

 すごく怖いと評判がよく、亜里沙が観たいと思って恵梨香を誘ったけれど、『絶対無理!』だと断られた映画だ。

 ほかの子も誘ってみたけれど軒並み断られ、終いには顔を見て笑いかけただけで、速攻『無理! ひとりでどうぞ!』と言われたのは苦い思い出である。

 ひとりで行くのは亜里沙も怖くて、結局映画館に行くことができないまま公開期間が過ぎてしまったのだ。

「きみがこの映画を観たがっていたと、経理課長が話してくれたんだ」

「経理課長が……そうなんだ」

 まさかの情報源である。

 ──あ、そういえば。当時経理課長と目が合ったとき、あからさまに逸らされたんだっけ……。

 女子全員に断られたといっても、妻帯者の経理課長を誘うつもりはなかった。

 けれど、社交辞令で一応『課長はどうですか?』と声をかけて速攻断られたのも、微妙に嫌な思い出だ。

「きみに関する情報は、苦労しなくても自然に手に入るんだ」

 社長に媚びを売るため──ばかりではないが、みんな進んで亜里沙の情報を提供してくれるらしい。
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