擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
やましいことはなにもないのでいいのだが、些細なことまで全部筒抜けではないと思いたい。経理課長にはしっかりお願いしておこう。
──でも雄大さんって、たしか……。
リゾート地での『声を出してはいけない』道ではとても緊張していたから、ホラー系が苦手だと思っていたのだ。
「雄大さんは苦手じゃないの?」
「……亜里沙が一緒なら、平気だと思う」
答えるまでの一瞬の間は、ホラーが得意ではないことを物語っている。それでも亜里沙のために映画をレンタルしてきてくれたのだ。
「とっても怖いって評判だよ?」
「きみと一緒なら楽しめるよ。怖かったら、亜里沙にしがみ付けるのが利点だ」
にんまり笑って言われてしまえば、なにも返すことができない。亜里沙としても、どうしようもない恐怖を感じたとき、彼にしがみ付けるのは利点と言える。
「問題ないならさっそく観ようか」
リビングの明かりを消して再生される映画は噂にたがわぬ怖さで、亜里沙はまた彼の新しい一面を見たのだった。
そしてその後。
「ひとりで入るのは怖いから、一緒に頼む」とバスルームに強制連行されてしまい、これも利点のひとつだったのかと思い知らされることになる。
バスルームでも寝室でも彼の深い愛情を一身に受ける、熱くて甘い夜が更けていったのだった。