擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 すっと立ち上がって挑戦的な目を向け、肩にかかる毛をサッとかきあげた。服装は掃除婦だけれど、美しさも姿勢も表情も、雰囲気だけは社長秘書っぽい。

「あなた、こちらになんのご用かしら? 経理のお仕事はどうなさったの?」

 それは亜里沙の台詞である。

 連城は襲ってくることも逃げる様子もなく威風堂々としていて、亜里沙の方が気迫負けしている。これでは、どちらが不利な立場なのか……。

 このままでは駄目だとお腹にしっかり力を込め、精いっぱい連城を睨みつけた。

「あなたこそ、社長の秘書デスクでなにをしているんですか? 部外者が会社の内部資料を見ることは許されませんよ」

 連城は手の甲を唇に当て、さもおかしそうにくすくすと笑う。

「あら、そのようなこと問題ありませんわ。私は部外者ではございませんことよ。もうすぐ雄大さまの秘書になる予定ですもの。ですから、ここでシミュレーションをしているのですわ」

「秘書? こちらに就職したのですか?」

「いいえ、これからですの」

 連城は美しい手を資料の上に乗せ、そこに綴られている文字に指先を這わせた。
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