擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

「あなたの〝したこと〟を証拠に撮ったんです。清掃会社の人が社長室の秘書デスクで会社の資料を見ている。立派なスパイですよ。犯罪です」

「こ、これは、スパイではなく、近い将来のための勉強ですのよ。そんなもの、証拠にもなりませんわ」

 明らかに狼狽えている。

 ぶっ飛んだ思考の持ち主でも、それくらいの良識はあるようだ。

「無駄ですから、それは消去なさいな。私には、あなたをクビにする力もありますのよ? それにあなたを組み伏せられる技もあります」

「……は?」

「これでも合気道二段ですの。見た目が可憐だからって、舐めないでいただきたいわ!」

 秘書デスクから飛び出した連城が亜里沙の方に駆けてくる。鬼のような形相で睨みつけているのは、写真を収めたスマホだ。ヤバい。

「いや、来ないで!」

 合気道二段がどれだけ強いのかさっぱり分からないが、運動音痴のへなちょこ亜里沙では太刀打ちできないことは歴然だ。

 咄嗟にスマホを両手で包んで踵を返そうとするが、足がもつれて上手く動けない。

 もたもたしているうちに連城に腕を掴まれてしまい、ぐっと引っ張られた。

 視界が斜めになって倒れていく、その刹那──ふたりの間に男性的な腕が割って入った。

 それは連城の腕を取って動きを止めている。微動だにできない彼女は悔し気に顔を歪めた。

「亜里沙に手を出すな」

「雄大さんっ」
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