擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
彼は連城を掴む手に力を込めたのか、亜里沙の腕を掴む手が緩まった。
そのおかげで腕がするりと抜けた瞬間、彼は亜里沙の体を庇うように背中側に回した。
「亜里沙にかすり傷ひとつでも負わせたら、俺はなにをするか自分でもわからない。女性だからと言って容赦はしないつもりだ」
心まで凍るような冷たい声音に、連城の顔色が真っ青になる。そしてなにか技をしかけようとしているのか、懸命に動こうとしている。
「無駄だ。合気道を心得ているなら分かるだろう。あなたより俺の方が強い。試してみるか?」
「い、いやですわ。そんなふうにご冗談を申されても、おもしろくございません。私は、彼女にケガをさせようとしていたんじゃありませんのよ」
「冗談じゃない。それに、無防備な相手を組み伏せてスマホを奪うつもりなら、あなたのしようとしていることは犯罪だ。会社の内部資料を無断で閲覧していたことも」
「あら、それは誤解ですわ。私は、彼女と仲良くお話しようとしただけですし、資料は彼女の了承がありましたわ」
「そんなことしてないです」
亜里沙は懸命に否定する。彼は連城が棚を漁っていたのを見ていない。ウソをつき通せば連城の言い分が正になりかねない。
「仮にそうだとしても、俺は、私利私欲の為に本来の業務である水回りの清掃を放りだす人を信用しない。連城家には四つ葉グループ企業への出入り禁止を申し立てる。二度と顔を見せないでくれ」