擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
乗るか越えるか、恋の荒波
五章 乗るか越えるか、恋の荒波
連城が掃除会社をクビになったと聞かされたのは、スパイ事件の翌日のことだった。
デスクを拭きに来たおばちゃんが声を潜めながらも、嬉々として亜里沙に語ってくれたのだ。
『業務放り出してここの社長室に忍び込んでいたなんてねえ、クビになるのは当然でしょう? もうみんなびっくりしちゃって』
おばちゃんは噂話が好きみたいだ。もしかしたら、これからも亜里沙の知らない情報を教えてくれるようになるかもしれない。
たとえば社内で見たこと、とか。
『そういえば、前に言っていた〝社長室の〟の先って〝掃除したい〟ですか?』
『はい。まったく怖い人でしたよ。大きな事件になる前にいなくなってよかったです』
おばちゃんはホッとしたように言って、別のデスクへ移っていった。