擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「大事な申請書を失くすなんて、そんなはずはないのですけど……おかしいな……?」
亜里沙は未処理の書類ケースから該当する申請書を懸命に探すが、まったく見つからない。
確認をして経理課長に提出済みかもしれない。
一縷の望みをかけて経理課長に尋ねると、彼も覚えがないようで、引き出しや書類ケースを漁り始めた。
「参ったなあ。今日あたり経費下りると思って、あてにしてたんだけど!」
いらいらと発せられる声が亜里沙の冷汗を増幅させる。
──どうしよう、どうしょう。ほんとに覚えがないよ。
普段亜里沙は申請書や領収書など自分が処理した書類については、処理してから承認が下りるまでの間は、内容も金額も申請者も覚えている。
経理は会社や従業員にとって大切なお金を扱う。だから一円でも間違いがないように気を張って仕事をしているのだ。
けれど一週間ほど前といえば、連城からと思われる視線の不気味さや社長室忍び込み事件などがあり、亜里沙の仕事の気を散らすには十分な環境にあった。
だから申請書を受け取っていない。間違いではないですかと、自信を持って言えないのだ。
「課長、どうしましょう~」
つい、情けない声が出てしまう。課長も額に滲んでいる汗をハンカチで拭っていた。
「とにかく、もうしばらく探してみよう。なかったら、その時に対策考えるから」