擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 経理課長とふたりして心当たりをあたふたと探していると、高橋までもが加わった。

 彼は棚やほかの社員のデスクまでも調べている。

「うん、ここまでないとなると……疑うべきは申請者ですよ。ほんとうに申請したんですか? 申請したつもりが、うっかりバッグの中に入ったままとか、なにかのファイルに挟んだままとか。結構ありますよ?」

 高橋の冷静な口ぶりに、営業がうっと喉を詰まらせたような声を出した。そして目を泳がせている。

「そんなはず……ない、はず」

 提出したかどうか、自身でもはっきり思い出せないのだろう。明らかに狼狽えている。

「あの~、ちょっといいですか?」

「はい?」

 振り返ると、掃除のおばちゃんが雑巾を持って立っていた。

「あ、今取り込み中なので、課長のデスクは拭かなくて結構です」

 高橋がそう告げると、おばちゃんは首を横に振った。

「違うんですよ~。言おうか迷ったんですけどねえ、困ってるから……」

 一同顔を見合わせ、経理課長が代表して先を促した。

「どうぞ、お話しください」

「はい、多分なんですけど……私、あなたたちの探してるその経費なんとかの書類、一週間くらい前に営業部のデスクの下に落ちてるの拾いましたよ」

 少し自信なさそうに言うおばちゃんの言葉に、申請者の営業が食いついたように尋ねた。

「それ、拾ってどうしました!?」
< 154 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop