擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「大事そうな書類だったから、隣のデスクに座ってる人に渡しましたよ。その人は書類を見て〝なくさないように、しっかり管理しないとね〟って笑いながら引き出しにしまってましたよ。すごいイケメンだったから、よ~く覚えてますよ」
そう言ってカラカラと笑う。
イケメンの営業……恵梨香の彼氏かもしれない。
この騒ぎが気になっているらしく、こちらに目を向けている恵梨香に視線を送ると、きょとんと首を傾げた。
「一度見た方がいいですね」
高橋が冷ややかな視線を送ると、営業は顔色を変えた。
「マジか……ひょっとして引き出しに入ったままかよ」
ぼそっと呟いて脱兎のごとく経理課内から出ていった。
「あいつ、管理の仕方がいい加減だって噂あるし、俺も一度とばっちりくらって面倒な目にあったことあるんだ。多分、引き出しの中だな」
高橋はそう言って肩をすくめ、デスクに戻っていく。その背中に、亜里沙はお礼の言葉を投げた。
いつも我関せずなところがあるが、いざとなれば頼れる先輩である。
「おばちゃん、ありがとうございます。すごく助かりました」
「いいよお。こういう仕事してるとね、探しもん見つけることが多いんですよ。役に立ってよかったです~。で、課長さんのデスクは拭いてもいいんですか?」
おばちゃんは照れ笑いをして掃除の仕事に戻る。
その後、営業は平謝りをしながら申請書を持ってきて、亜里沙はホッと胸をなでおろしたのだった。