擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

〝二度あることは三度ある〟とは、先人がつくった諺だ。

 同じような悪いことが三度起きるかもしれないから気を付けようという戒めである。

 亜里沙は今、それを身を持って感じていた。

 一度目は連城の社長室忍び込み事件。二度目は申請書紛失事件。そして三度目が、今まさに始まろうとしていた。

 経理課長に会議室内に呼ばれた亜里沙は、顔色を曇らせて並べられた書類を見た。

「この領収書の数字が少しずつ書き換えられていないか? 付随して、こっちの経費申請書も改ざんされている」

 経理課長は額に汗をにじませながら、改ざんされたと思われる数字を指差した。

「え……それを、私がしたということですか?」

「いや、そういうことじゃないんだ。心当たりはないかな? ということなんだけど。申請書をチェックすると通常よりも大きな数字が書かれている。しかも小口精算のものばかりなんだ」

 経費の精算は現金をそのまま社員に支払う小口精算と、給与と一緒に振り込む方法とあり、申請者が精算方法を選んでいる。

 金額が通帳などに残る振り込み精算に比べて、小口精算は上手くすると、実際の申請額との差額をポケットに入れられるということだ。
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