擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
再び〝横領〟という言葉が亜里沙を襲う。社長室に呼ばれたときとは違い、今回は申請書と領収書という具体的な証拠がある。
「まあ金額的には小さいし、今のうちなら、なんとかできないことはないから……」
それは偏財すればもみ消すということだろうか。
経理課長ははっきり言わないけれど、やはり亜里沙が疑われている。
営業の経費精算業務は亜里沙の仕事だ。仕方がないとはいえ、胸にこみ上げてくるものがある。
「課長、私、そんなことしていません!」
バンッとテーブルを叩き、前のめりになって訴えた。
亜里沙は香坂社長の妻だ。こんな疑惑を持たれていては、彼に迷惑がかかってしまう。
社内で妙な噂が立つ前に、なんとか払しょくしなければならない。
以前だってすぐに疑惑が晴れたとはいえ、社員から向けられる目には随分辟易したのだから。
「でも実際に数字が書き換えられているんだ。これはどう説明する?」
「……調査します。それで無実を証明します! だから、これはまだ誰にも言わないでください!」
「じゃあ一週間後……なんらかの結果を報告するようにして。そのときまた、この先の話をしよう」
「はい……」
会議室から出て自席に向かう。
──どうして、数字が変わったのかな。
精算の申請を受けた際、不正を防ぐために、亜里沙は申請書の金額が合っているかどうか調べている。