擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

「武道の心得があるんですか?」

「そう、合気道四段だよ。まあ亜里沙の場合は、技を使わなくても腕の中に入れるだけで、逃がさない自信があるけどね」

 武道の段位はさっぱり分からないが、以前連城を捕まえたときに〝俺の方が強い〟と言っていたことから、彼女の持つ二段よりも上なのだろう。

 腕力もある上に武道有段者だなんて、ずるい。へなちょこ亜里沙では一生敵いっこない。

「さて、夫である俺から逃げようとした理由を、しっかり訊かせてもらおうかな」

 亜里沙はなすすべもなく社長室に連行されたのだった。




「亜里沙、なにがあったのか、話してごらん」

 社長室のそばにある応接室のソファに並んで座り、優しく語りかけられれば亜里沙の目に涙が滲む。

「話したら、私のことを嫌悪するかもしれないよ?」

「亜里沙は俺の妻だ。なにがあっても嫌わない。きみはもっと俺を信用するべきだよ」

 彼の揺るぎない瞳が、しっかり亜里沙の目を捕らえている。

 ──信用……そう、そうだよね。

 夫婦は互いに信用して、助け合って、共に生活していくのだ。これから先もずっと……。

 彼ならきっと亜里沙が悪いことをしていないと分かってくれる。

 暗く沈んでいた胸の中が安心感で満たされていった。

 ──私ったら、なんで怖がっていたんだろう。

「実は、さっき……」
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