擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 彼に〝横領疑惑〟のことを話すと、その書類を持ってくるように言われ、すぐさま取りにいって彼に見せると、眉間にしわを寄せつつ言った。

「少額な上に、随分幼稚な改ざんだな。すぐにばれることを目的にしてる感じだ。普通なら、横領をするときはもっと巧妙な手口を使う。これでは、小学生が改ざんしたようなものだ」

「そう言われれば、そうですよね……」

 ニュースでよく聞く横領は金額も膨大で、簡単にばれないよう緻密な手順でしている印象がある。

「すぐに経理課長が気づいて、亜里沙に疑惑が向けられるように仕組んでいるんだろうな。そういうことをされる心当たりはないか?」

 ──私を恨んでる人、なのかな。そんなの心当たりないよ。

 あるとすれば、お茶くみの件を頼んできたふたりと、忘年会の件の女史と……でもどれも亜里沙を陥れるほどの恨みは抱いていないはずだ。

 黙り込んでいる亜里沙の傍で、彼は書類を見ながらつぶやくように言葉を続けた。

「犯人は、小口現金を扱える者、経理ソフトを使用できる者、そのうちの誰かだな……複数犯もあり得るか……」

 彼はしばらく無言になり考えを巡らせた後、亜里沙に向けてにやりと笑った。

「うん、犯人の見当がついたよ」

「え、もう? いったい誰なんですか?」

「それは、はっきりしてから言う。それで確認なんだけど、この件、部内では内密にしているのか?」
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