擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 顎でクイッと廊下の方を示す。

 高橋の後に続いて廊下に出ると、バッと九十度の角度で頭を下げた。

「ほんとうに、すまない!」

「え、あ、頭を上げてください。もう気にしてませんから」

 なだめるように言うと、高橋は元の姿勢に戻って顔を歪めた。

「あれからすぐに連城さんに会って協力を断ったら、ずっと上品だった彼女が汚い言葉を口にしてさ……その豹変ぶりには驚いたけど、まあ、今回はいい勉強になったよ……しっかり縁を切ってきたから、もう迷惑をかけないよ」

「はい、その坊主頭に決意が現れてますから、それだけで十分伝わってきてます」

「連城さんは、『自分が何を仕掛けても、社長の妻への愛情は全然揺るがないし、誰の協力も得られないなら、もう諦める』って言ってた。だから俺も『その方がいい、もっといい相手を探した方がいい』って言ったら、最後には笑ってくれたよ。しばらくの間海外で暮らすって、飛行機で旅立った」

「そっか、やっと、やっと分かってくれたんだ……! 教えてくれて、ありがとうございます」


 もう二度と連城のことで悩まずに済むなんて、気分はスッキリ晴れやかだ。


「彼女さ、社長が拒絶するのは愛情の裏返しだって、すごい歪んだ思考を持っていたみたいなんだ。でもまあ『諦める』って言ってたし、二度と近づかないだろ。俺もそれ後押ししたし……だからまあ、その、よかったなって報告だ」

 高橋はにやっと笑って、ぐっと親指を立てた。

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