擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
チョコチップとナッツがバランスよく入った四つ葉クッキーは亜里沙の大好物である。口に入れると絶妙な甘さが身の疲れを癒してくれる。
「ん~おいしっ、ありがと」
「お疲れ。少しは落ち着いた?」
クッキーを置いて声をかけて来たのは隣の部署の神田恵梨香だ。
優秀なWEBデザイナーであり、今は四つ葉薬品のサイト管理を担当しているらしい。
「うん、やっと先が見えて来たよ。今日は早く帰れそう」
「じゃあさ、今夜『へべれけ』に行かない?」
『へべれけ』とは、最近オープンしたばかりの居酒屋である。ネーミングはいまいちだけれど、内装はお洒落で料理もフォトジェニックだと評判なのだ。
しかも店長はいかついゴリラ系男子なのに、盛り付けが可愛い。そのギャップがさらに評判を呼んでいる。
「うん、そこ、行ってみたいと思ってた」
「よっしゃ、じゃあ七時でどう? 休暇どうだったか、聞かせてよ」
亜里沙は一も二もなくうなずき、その後の業務を気合を入れてこなした。
週半ばの平日でも『へべれけ』は混んでいる。亜里沙たちがテーブル席に案内されたのを最後に店の入口には空き待ちの列ができた。
その様子を目にして、恵梨香が気の毒そうな笑顔を見せた。
「すごい人気。私たちすぐに座れてラッキーだったね。でも私にとっての今日のメインはへべれけの料理ではないのだ。どうだったの。久々のリゾート地は?」