擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
亜里沙だって恵梨香の恋話を聞くのは楽しいのだ、気持ちはよく分かる。
「実は男性とぶつかって珈琲をかけられて……」
亜里沙が話をすると、たまにビールやおつまみを口にしながら、楽しそうに聞いている。
その羨まし気な表情が、リゾートホテルから出たくだりになると「う~ん」と唸り声を上げて残念そうに唇を歪め、ダンッとテーブルを叩いた。
「ちょっとなにそれ。亜里沙ってば、すっごくもったいないじゃないの!」
身を乗り出してくるその勢いにたじろいで目を瞬かせていると、恵梨香はふんっと鼻息を飛ばした。
「もったいないかな?」
「そうだよ、信じられない! せっかく、とんでもセレブなイケメンと知り合ったのに~。私なら捕まえて離さないよ。なんで連絡先の交換しなかったの?」
「それは、彼のスマホが壊れていたから……それに尋ねられなかったし」
「っていうかさ、普段はどこに住んでるのかとか、仕事はなにをしてるのかとか、後から探す手掛かりになりそうなこと、なんにも訊かなかったの?」
「だって、相手は高級リゾートホテルのスイートに泊まれるような人だよ? 私なんて一時の遊びに過ぎないでしょ。連絡先訊いて困った顔されたらいやだよ。旅先のいい思い出だけ残して、終わりにしたいじゃない」
コウサカが何者であるか、興味を持たなかったと言ったらウソになる。
こうしている今もまた会いたいと思っているのも事実だ。