擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
けれど亜里沙とコウサカでは住む世界が違い過ぎる。彼の周りで目にするものすべてが煌びやかだったのだから。
──きっとついていけないもの。
あの世界は当事者ではなく、映画を見ているような客観的な視点で眺めるのがいい。
リゾートで経験した特別なエピソードとして、ずっと綺麗なまま記憶にとどめておくのだ。
「それに、絶対恋のライバル多いもの。彼の周りには、セレブなお嬢さまとか、綺麗なモデルさんとか、そんなひとたちがゴロゴロいそう。私なんかとても勝てる気がしないよ」
亜里沙には平凡で穏やかな男性と平和に過ごすのが似合っている。
「そっか~。そんなに素敵な人なんだよね。私だったら、手に入れるために頑張って蹴落としちゃうけどなぁ。彼も亜里沙のことが好きっぽいのに、ほんとにもったいない!」
「恵梨香は肉食系だもんね。そういうとこ、ちょっとだけうらやましいよ」
「ちょっとだけなの? もうっ、大いにうらやましがりなさいよ。私のパワーを亜里沙に分けてあげたいくらいなんだから」
しきりに悔しそうにしている恵梨香は、ひと月前ほどに、なみいるライバルを蹴落として営業部にいる社内一のモテ男の恋人になったばかりだ。
だからいっそう亜里沙のことが歯がゆく思えるのだろう。
なんの接点も無かった彼とどうやって知り合って恋人になれたのか。