擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
その戦略は? と問えば、見かけたらとにかく話しかけて印象付けて、彼の近くで書類を落とすなどの小さなミスをして、どんどん会話を増やしたという。
恵梨香の強引ともいえるアピールの嵐にあったモテ男の彼は、とうとうその熱意に根負けしたらしい。
『じゃあ、付き合おうか』との台詞をゲットした時には、涙が出たと話してくれた。
それって、結局彼には好かれてないよね? と亜里沙は言ったけれど、恵梨香にとってそこは重要ではないらしい。
始まりはどうであれ、付き合ううちに恋してもらえればそれでいいと言う。
終わりよければすべてよし。目指すゴールは結婚だと拳を握っていた。
「うん……ありがとう。気持ちだけ、もらっておくわ……」
自分のことのように悔しがる恵梨香をなだめ、逆にモテ男の彼との恋話をねだった。
満員のため時に暑ささえさえ感じる通勤電車を降りると、亜里沙はぽつりとつぶやいた。
「寒いっ、そろそろ薄手のコートが要るかも」
夏の暑さの名残が消えうせた外気は、朝はとくに秋の涼しさが身に染みる。ヒュウッと吹く風に身を縮めて、駅からの道のりを歩いた。
「おはようございま~す」
あいさつをしながら席に着こうとする亜里沙の目に、忙しなく片づけをする男性社員たちの姿が映った。