擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
 ここは都会から離れた場所にある風光明媚なリゾート地。新幹線と在来線を使って三時間ほどかけてやってきた。

 支払いを済ませてタクシーから降り立った河村亜里沙は、スーツケースを脇に置いて、う~んと伸びをした。

「ん~、気持ちいい! やっぱり、この開放感は最高!」

 真夏のキラキラした太陽。真っ白な砂浜。見渡す限りに広がる真っ青な海。目に入る景色全部が眩しいほどに美しすぎて、異世界にでも訪れた気分になれる。

 大学生の頃に一人旅で訪れたここがお気に入りのリゾート地になり、以来何度もこの地に来ている。

 海沿いにはリゾートホテルや旅館などはあっても、巨大なオフィスビル群など欠片も見えない。

 肌に当たる海風が心地よくて、空気もおいしくて、何度も深呼吸をしてしまった。

 ──はぁ~、これだけでも癒されるぅ……。

 嬉しすぎて目に涙が滲む。それだけ心身ともに疲れていたのかと思えば、自分が哀れになってくる。

 職場での人間関係、ぎゅうぎゅう詰めの通勤電車、職場とアパートを往復するだけの色のない毎日……。

 それがここには一切ない、まさに夢の世界!
 
 とはいっても、彼氏いない歴五年のおひとりさまなのだけど。まあ、そこは考えないでおこう。

「よっしゃ、休みを満喫するぞ~」

 心中の歓喜が言葉となって口から零れ落ち、スーツケースをガラガラと引いて、うきうきと宿に向かった。
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