擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
 道すがらにすれ違う観光客たちはみんな楽しそうに笑っていて、亜里沙のウキウキゲージも急上昇する。

 これから五日間ほどをこの地で過ごす。一年間社蓄のごとくに働いた自分へのご褒美なのである。

 とはいっても夏真っ盛りの今、オンシーズンのこの地で高級リゾートホテルに連泊できる身分でもない。

 繁華街の中心部にそびえる真っ白な外壁のリゾートホテル。六つ星を誇る『リレリパージュ』の経営だそうで、ネットでチェックしたら内装も豪華。

 一番安価な部屋でも一泊十万円からとあっては、IT企業の一般社員である亜里沙には高値の花だ。

 近年できたばかりのここには、タレントやセレブなどが宿泊するらしい。

 ホテルの傍を通ったら、有名人に会えるかな~……などと考えつつ遠くに見えて来た古びた民宿を目指した。

 今回もお世話になるのは『小浜館』。

 毎年ここに宿泊するため、宿屋の女将さんとはもう顔なじみだ。

「いらっしゃい。河村さん。いつものお部屋を準備してあるよ」

「ありがとう、おかみさん」

 勝手知ったるいつものお部屋。亜里沙は宿帳に記載して鍵を貰うと、さっそくお部屋に向かった。

「来てよかった~。やっぱ、眺め最高」

 窓の外に広がるのは真っ青な海原。

 全室オーシャンビューだけれど、その中でも一番海に近い部屋を用意してもらっている。

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