擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
そう言いながら亜里沙の腰に手を回し、歩くのを促してくる。
──ちょ、こういうときだけ強引なんだ。
「連城さんのことは理解してるけれど……私の道具はなにもないし。いったん家に帰らないといけないと思うんです」
焦る亜里沙を尻目に、彼は手をぎゅっと握ってきた。
「きみの着替えなどは、人に頼んで用意してもらってある。まあいつものブランドじゃないかもしれないけど。おいおい買い揃えればいいから」
「人って? どなたですか?」
「信用のおける人だから、安心していいよ」
──もしかして、四つ葉食品の秘書とか? それって公私混同なんじゃ……。
そんなこと口に出して言えないけれど。でもこれから一緒に生活していくのだから、遠慮はいけないかな……ここはビシッと間違いを指摘すべきかも。
頭の中でぐるぐると考えていると、亜里沙の腰がいっそう引き寄せられた。ついで彼の口元が耳に寄せられる。
「なにより、今夜はきみを帰したくない。この二ヶ月の間は部屋でひとりになると、きみのことばかり考えていたんだ。その責任を取ってくれ」
「責任って……」
「ここまでして会いたいと思ったのは、亜里沙が初めてなんだよ」
胸に響くような甘い声でそう言われれば、ときめいてしまって二の句が継げなくなる。
彼はプロを雇ってまで探してくれていた。リゾート地で雰囲気が盛り上がって、一夜の夢を紡いだだけの相手なのに。