擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「突然ですが、香坂の妻になることになりました。よろしくお願いします」
亜里沙の言葉に少し首を傾げた真田は、それでも笑みを崩さず、手にしていた紙袋を香坂に差し出した。
「ご依頼の品をお預かりしています。どうぞ」
「ありがとう。面倒掛けたね」
「私の娘に準備させましたので、品物は香坂さまのお眼鏡にかなうと存じます。ご安心ください」
最後の台詞は亜里沙に向けられている。ということは、紙袋の中身は亜里沙のもので、彼は公私混同していなかったことになる。
「ありがとうございます」
真田に感謝の気持ちを伝えながら、ひっそりと安堵した胸を押えた。亜里沙の着替えを女性が準備してくれたこともそうだけれど、なによりも。
──確かめずに注意しないでよかった……。
しかし今日はなんてアクティビティな日なのか。
再会して驚き、連城のストーカー気質に恐怖して、突然のプロポーズに戸惑いはしたものの嬉しくなったりときめいたり。今日一日で十年分の感情を味わった気分だ。
──これって、夢じゃないよね?
彼に隠れてこっそり手のひらを抓ってみるが、痛みを感じる。
──痛みの感じる夢って、あるのかな。
彼と真田のやり取りをあまり働かない頭で聞いているうちに、いつの間にかエレベーターに乗せられて、十二階にある彼の部屋にたどり着いていた。
「どうぞ、入って」