擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
真田が言っていた通り無難な選択で亜里沙の好みに合っている。袖を通せばサイズもぴったりで、他人が用意したとは思えないほどだった。
身なりを整えてリビングに行くと、部屋の中は珈琲の香りで満ちていた。
「もうすぐだから座って待ってて」
昨夜はさらりと間取り紹介されただけだったけれど、明るい中で改めて見回せば、部屋の内装はごくシンプルで置かれた家具も必要最小限に抑えられていた。
それでもひとつひとつに使用された素材が重厚な印象で、ソファの下に敷かれたラグ一枚にしても最高級品であることは亜里沙にも分かる。
「ここはついひと月ほど前に引っ越してきたばかりなんだ」
椅子に座らず部屋を見回している亜里沙に話しかけてきた。
振り向けば彼は、キッチンカウンターに置いたふたつのカップに珈琲を注ぎ入れているところで、サーバーを扱う手つきはカフェの店主のようにさまになっている。
もしも彼がお店を始めたら、若い女性客が入り浸るに違いない。
「それって、もしかして連城さんを避けるためですか?」
「まあそれもきっかけの一つだけど、正確には違う。ここを買ったのは、亜里沙と一緒に住みたいと思ったからだよ。家探しをしていたとき、下見したこの家のそこかしこに、きみがいるのをイメージできた。それで気づけば即決していたってわけ」