擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
即決……。
コンシェルジュが常駐するようなマンション。素人目にも価格はゼロがいくつも並ぶほどだと分かる。
亜里沙とは無縁の数字だ。あきらかに生活のレベルが違う。
彼の見ている亜里沙は、等身大なのだろうか。
そして亜里沙の見ている彼は、本来の姿なのか。
亜里沙と接しているときはとても優しくて気さくだけれど、実はもっと近寄りがたい人なのでは……?
『冷徹な社長』
昨日のレストランで垣間見た、イベント会社の社長に向けた少し険しい表情と、高橋の言っていた言葉が亜里沙の脳裏をよぎった。
彼と過ごしたのはほんのわずかな時間で、お互いのことをよく知らないのは事実だ。
これからの生活で彼の本当の人となりと、亜里沙への思いが一時的なものじゃないことを確認していかなくてはならない。
「亜里沙は珈琲の砂糖とミルクはいる?」
「あ、ブラックでいいの。香りを楽しみたいから」
「そっか。亜里沙も珈琲が好きなんだな。やっぱり好みが合う」
「ドリップ珈琲はたまにしか飲まなくて、ほぼインスタントだけどね」
マイスターの資格を取るほど、真の珈琲好きの彼とはレベルが違い過ぎて、ちょっと気恥ずかしい。
「インスタントでも、美味しい珈琲だよ。時間のないときには手軽で便利だから、俺もたまに利用する。ほら、きみの珈琲、どうぞ」
「ありがとう」