こんなにも愛しているのに〜それから
見なれた、
あの当時より
少し草臥れた暖簾をかき分け
幾分沈んだ気持ちのまま
がらり戸に手をかけた。

仕方ないか、
三谷はあのことを知らないから、
故郷に帰る前に懐かしんで
ここを指定したのだろうな。
と思っていた。

店の中を見渡すと
随分と落ち着いた雰囲気に改造してあり
カウンター中のスタッフも若返っているようだ。
あの強面の大将の姿はなかったが
とてもよく似た面構えのがたいのいい男は
きっとあの大将の息子なんだろう。

大きな声で
「いらっしゃい!!」
と声をかけられる。

三谷の名前を告げると、
奥の個室に案内された。
俺たちが通っていた頃は
こんな個室なんてなかったのにな。

「お連れさん、お見えです。」

案内をしてくれた若いお兄ちゃんが
中に声をかけた。

「!!」

中に一歩踏み込んだ途端
俺の顔が強張ったのが自分でもわかった。

「久しぶり。」

そう言って後ろめたい感情など
微塵も感じさせない
深野 芳絵(ふかの よしえ)
の姿がそこにあった。

よりにもよって
この時に亡霊のように現れた
深野と会わなくてはいけないんだ。

「三谷、、、これは?」

下座に気詰まりそうに座っている
三谷に問うた。

「すみません。
自分は深野さんが会いたがっているからと
きちんと言ったほうがいいと言ったのですが、
深野さんが驚かせたいからと。」

「驚かせたじゃない。
狙い通りよ。
そんなところに突っ立ってないで、
中に入って。
さぁ、」

そう言って立ち上がって、俺を中に引き入れようとする
深野を避けるように、
仕方なしに中に入って、三谷の隣に座った。
深野はそんな俺に少し眉を顰めると
あっという間に気を立て直して
飲み物などを注文した。

「じゃぁ、ひとまず再会を祝して乾杯。」

明るく深野がそう言って音頭をとり
俺や三谷のグラスに自分のグラスを
合わせた。

「三谷。」

「はい。」

「今日はどういう鼎談だ?」

俺の不機嫌さを感じてか三谷が緊張していく。

「そんなに三谷くんに詰め寄らなくても
いいじゃない。
私が二人に会いたかったのよ。」

深野がいくらかビジネストーンで言う。

「二人がやっと林田くんの元を離れたって
聞いて、スカウトしに来たのよ。」
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