こんなにも愛しているのに〜それから
全ての送別会を
断ってはいたが
この日は
以前の会社から一緒だった三谷と
営業補佐で散々お世話になった加藤に
お礼の意味も込めて
3人で飲みに行った。

「室長が辞めてくれて本当によかったです。
これで自分も心置きなく、
この会社を辞められますよ。」

退職の心算をこの三谷だけには
当初から話していた。
俺と林田の会社に新卒で入社して以来、
10数年にわたる付き合いだ。

「三谷くんは、室長のためにここに
いたんですものね。
これからも一緒かなって思っていたら、
実家に帰るんですって?」

「あぁ、離婚されて独り身になった俺は、
身軽なもんです。
親は、離婚した息子がどの面下げて、
って言っていましたが
もう帰ってこないと思っていた息子が
帰ってくるというので
内心、喜んでいるようです。」

「三谷くん、離婚したの!
知らなかったいつ?」

加藤が心底驚いたように三谷に尋ねた。

「去年。
結婚5年目の去年。
忙しさにかまけて、結婚生活を
構築できなかった、自分のせいですよ。

子供が欲しいって言いながらも、
彼女の気持ちに寄り添ってやることもしないで
愛想を尽かされた、というところが真相です。
相手さんは、離婚して1年経った
この間再婚したらしいけど、
デキ婚だったらしく。。。」

「あぁ、もういい!
三谷くん、それ以上言わなくていいよ。
今日は室長の奢りだから、飲もう。ね!
室長の退職祝いと
来月の三谷くんの退職と
近いうちの私の退職祝いに乾杯!」

乾杯をしようとグラスをあげた
加藤に待ったをかけた。

「三谷の退職は聞いた。
離婚の話も聞いていた。
でも
加藤の退職の話は初めて聞いたぞ。」
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